緩歩動物など一部の動物は、周囲が乾燥してくると体を縮め、代謝をほぼ止めて「乾眠」の状態に入る。乾眠個体は、過酷な条件にさらされた後も、水を与えれば再び動き回ることができる。
乾眠状態には瞬間的になれるわけではなく、ゆっくりと乾燥させなければあっけなく死んでしまう。乾燥状態になると、体内のグルコースをトレハロース($C_{12}H_{22}O_{11}$)に作り変えて極限状態に備える。いずれ酸素の代謝も止まり、完全な休眠状態になる。ただし、クマムシではトレハロースの顕著な蓄積が確認されておらず、どのように乾眠状態に入るのかは未だ不明である。
これらの乾眠個体は非常に大きな耐性強度を持つことで知られており、下のように過酷な環境にも耐えることができる。
・通常は体重の$85.0$%をしめる水分を$3$%以下まで減らし、極度の乾燥状態にも耐える。
・$100℃$の高温から、ほぼ絶対零度($−273℃$)の極低温にも耐える。
・ほぼ真空から$75000$atmの高圧にも耐える。
・高線量の紫外線、X線、ガンマ線等の放射線に耐える。X線の半数致死量は$3200$Sv。
ただし、放射線を$1$Sv受けたとき、$1$Kgあたり$0.8$Jのエネルギーを受け取ったことになる。また、ここでの半数致死量とは、実験動物に放射線を浴びせたとき、その半数が死亡する放射線の強さを表す。あとの設問を解くにあたって必要ならば、個体差を考慮することなく、問題文中に提示された数値をそのまま用いてよい。
⑴グルコースがトレハロースに置き換わる化学変化に関連して、
①反応物と最終的な生成物に着目した化学反応式で表せ。
②一般的にトレハロースを含む食品をア〜オからすべて選べ。
ア ビール イ 牛乳 ウ 食パン エ スターフルーツ オ しいたけ
⑵質量$w_1$の乾眠個体の水分量は、体重の$1.0$%であった。ただし、この乾眠個体はクマムシではないことが分かっている。炭素原子、水素原子、酸素原子の質量比$C:H:O=12:1:16$とする。
①この乾眠個体に蓄積されているトレハロースの質量を、$w_1$を用いて表せ。
②この個体が乾眠する前に蓄積されていたグルコースの質量として考えられる最も大きな値を、$w_1$を用いて表せ。
⑶乾眠した$1000$匹のクマムシが宇宙空間に放出され、太陽から$3200$SvのX線を受けた。このあと充分な量の水をかけると再び動き回る個体は約何匹だと考えられるか。最も適切なものをア〜オから1つ選べ。また、そのようになる理由を説明せよ。
ア $0$匹 イ $250$匹 ウ $500$匹 エ $750$匹 オ $1000$匹
⑷乾眠した$1000$匹のクマムシを、$100℃$に沸騰させたお湯の中に入れた。このあと充分な量の水をかけると再び動き回る個体は約何匹だと考えられるか。最も適切なものをア〜オから1つ選べ。また、そのようになる理由を説明せよ。
ア $0$匹 イ $250$匹 ウ $500$匹 エ $750$匹 オ $1000$匹