塩酸と硝酸を体積比$3:1$、もしくは塩酸がさらに多くなるような比率で混合した物質を王水という。王水は非常に強い酸化力を持っており、金や白金でさえも溶解することができる。王水がどのような仕組みで貴金属を溶解するのか、以下では金を例に挙げて考えていこう。
塩酸と硝酸を混合したとき、次の化学反応が起きる。
$$[ A ]$$
この反応により$( Ⅰ )$、水、塩素が発生する。$( Ⅰ )$は非常に強い酸化剤として機能し、イオン化傾向の小さい貴金属も溶解することができる。この物質により、王水に金を入れると、次の化学反応が起きる。
$$[ B ]$$
この反応により、$( Ⅱ )$、テトラクロリド金(Ⅲ)酸が発生する。ただし、テトラクロリド金(Ⅲ)酸は、水溶液中で$H^+$と$[AuCl_4]^−$に電離している。このようにして、王水は金を溶解するのである。
王水の性質を調べるため、以下の【実験1】〜【実験4】を行った。
【実験1】
塩酸と硝酸を混合して放置すると、数秒で無色から橙色に変化した。橙色は徐々に濃くなっていったが、しばらくすると色の変化は見られなくなった。この王水に金を入れたが、ほとんど溶解しなかった。
【実験2】
王水に黄鉄鉱$(FeS_2)$を入れると、黄鉄鉱は溶解し、硫酸と一酸化窒素が発生した。
【実験3】
王水にスズを入れると、スズは溶解し、一酸化窒素と二酸化窒素が発生した。
【実験4】
王水に銀を入れると、銀がわずかに溶解した後、ほとんど反応が進行しなかった。
⑴文章中の$[ A ],[ B ]$に当てはまる化学反応式を答えよ。
⑵文章中の$( Ⅰ ),( Ⅱ )$に当てはまる物質名を答えよ。
⑶【実験1】において、金がほとんど溶解しなかった理由を、塩酸と硝酸の反応による生成物の性質に着目して説明せよ。
⑷【実験2】、【実験3】の化学変化を化学反応式で表せ。
⑸【実験4】において、
①銀が溶解する化学変化を化学反応式で表せ。
②ほとんど反応が進行しなかった理由を、反応による生成物に着目して説明せよ。